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名古屋高等裁判所 平成2年(ネ)677号 判決 1992年1月29日

控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 岩本雅郎

同 秋田光治

同 高柳元

被控訴人 アーバン投資顧問株式会社 (旧商号 株式会社赤坂グループ事務所)

右代表者代表取締役 樋口恵市

<ほか一名>

主文

一  原判決中控訴人の被控訴人アーバン投資顧問株式会社に対する請求に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人アーバン投資顧問株式会社は、控訴人に対し、金一一〇万円及びこれに対する昭和六〇年三月二四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人の被控訴人アーバン投資顧問株式会社に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人の被控訴人樋口恵市に対する控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、控訴人と被控訴人アーバン投資顧問株式会社との間においては第一、二審を通じこれを一〇分し、その九を同被控訴人の、その余を控訴人の各負担とし、控訴人と被控訴人樋口恵市との間においては控訴費用を控訴人の負担とする。

四  この判決の一1項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人に関する部分を取消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、各自金一二五万円及びこれに対する被控訴人アーバン投資顧問株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は昭和六〇年三月二四日から、被控訴人樋口恵市(以下「被控訴人樋口」という。)は昭和六〇年三月二六日から支払済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  控訴の趣旨に対する答弁(擬制陳述)

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

原判決事実摘示中控訴人に関する部分のとおり(ただし、原判決一六枚目表一〇行目の「認識ながら」を「認識しながら」と、同二四枚目裏三行目の「データの」を「データを」とそれぞれ改める。)であるから、これを引用する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  本件訴訟の当事者、紛争の経緯(被控訴人会社従業員の控訴人に対する勧誘状況)及び被控訴人会社の組織及び業務内容に関する当裁判所の事実認定は、次のとおり付加、訂正、削除するほかは、原判決「理由」一ないし三のうち控訴人に関し説示するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三一枚目裏三行の「争いのない事実、」の次に「成立に争いのない乙第六九号証の四、五、原審における控訴人本人尋問の結果から真正に成立したものと認められる甲第一七号証」を、同五行目の「一ないし」の次に「三、六ないし」を、同三二枚目表五行目と同裏七行目の「被告会社」の次にいずれも「名古屋支社」を、同表一一行目の「一万株枠」の前に「一〇〇円のが二〇〇円になる政治銘柄」をそれぞれ加え、同裏九行目の「もっとよい情報を提供します。」を「年に一二回売買して手持資金を確実に五〇〇万円にします。」と改め、同三三枚目表三行目の「原告」の次に「永田」を、同八行目の「のです。」の次に「その方は一年で一〇〇〇万円から三〇〇〇万円になりました。」を、同一〇行目の「必要です。」の次に「最高会員になれば、手持資金を月に二回売買して年に六〇〇万円から七〇〇万円にします。」を、同一一行目の「本社資格審査室」の次に「と称するところ」をそれぞれ加え、同三四枚目裏一一行目冒頭から同三五枚目表二行目末尾までを削る。

2  同三五枚目表三行目冒頭から同四行目末尾までを次のとおり改める。

「 以上の事実が認められる。

もっとも、《証拠省略》には、被控訴人樋口は、被控訴人会社の社員に対し、絶対もうかるなどと断定的判断を述べて顧客を勧誘してはならないと指導していたとの供述記載があるが、右供述は単に社員に指導したと述べるにとどまるものであるうえ、《証拠省略》によれば、右指導の時期は昭和六〇年ころのことであると認められることに照らせば、《証拠省略》の右記載は前記認定を左右するに足りないものというべく、他に前記認定に反する証拠はない(むしろ、控訴人が被控訴人会社の従業員から勧誘を受けた翌日には会費を支払っていることや、その後五日間のうちに更に二ランク上位の会員になっていること、さらに、《証拠省略》によれば、昭和五七年三月当時、被控訴人会社は顧客の勧誘に行き過ぎがあったことを肯定していたことが認められることなどの諸事実に徴すると、勧誘時の状況に関する控訴人の原審における供述は十分信用できるものというべきである。)。」

3  同四〇枚目表一行目の「前記乙」の次に「第六五号証の四、」を、同二行目の「第七一号証、」の次に「成立に争いのない乙第一五号証、第五一号証、」をそれぞれ加え、同三行目の「一ないし四、」を「一ないし三、」と改め、同一〇行目の「一五、」を削り、同裏二行目の「第二五ないし」の次に「第五〇号証、第五二ないし」を加え、同四一枚目表二行目と同一一行目の「顧客の継続」をいずれも「顧客に継続」と、同四二枚目表三行目から四行目にかけての「指導銘柄の株数制限及び取引形態、」を「取引形態及び空売り指導など指導の内容、」とそれぞれ改める。

二  そこで、控訴人の主張する被控訴人らの違法行為について判断するに、この点に関する当裁判所の認定判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決「理由」四に説示するとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四四枚目裏一〇行目の「一定の」の前に「被控訴人会社が」を加え、同四五枚目表二行目冒頭から同四行目末尾までを次のとおり改める。

「 ところで、控訴人は、被控訴人会社が投資顧問業者として同業他者に比べ多大な投資結果を得られる能力もないのにこれあるように装ったことが違法であるかの如く主張するが、被控訴人会社が控訴人が右主張するような能力を標榜していたかはさておき、自由競争を基調とする経済社会においては自己の企業がその製品等の面で他の企業より優れていることを強調することは自然の成り行きであるから、控訴人が主張するような能力の標榜が不法行為の対象として考え得るのは、投資顧問会社として、事実は人的物的に能力が全くないか、あるいは他の業者と比較して著しく劣っているなどの場合であるというべきところ、前記したところ(原判決記載)からすれば、被控訴人会社が投資顧問業者として、人的物的設備を欠如しており、その能力を有していないとか、右設備、能力の面で他の業者に比し著しく劣っているということはできない。

もっとも、控訴人が被控訴人会社の指示に基づき株式の売買をした結果が損勘定となったことは前記のとおり(原判決記載)であり、また、《証拠省略》によれば、控訴人及び原審における共同原告であった乙山春子(以下「乙山」という。)が被控訴人会社から推奨された株式は結果的にみて疑問と思われるものもあることが認められる。しかしながら、他方被控訴人会社から推奨された株式の中にはかなり有望なものもあったことが右各証拠から認められるうえ、《証拠省略》によれば、被控訴人会社の会員数は相当数(昭和六二年当時で約一〇〇〇名)に上ることが認められるのであるから、控訴人と乙山の右事例のみから直ちに被控訴人会社の投資顧問会社としての能力を判断することはできないものといわなければならない。」

2  同四五枚目表九行目の「一銘柄の株数、」を削り、同一〇行目の「形態」の次に「及び指導の内容も異なり」を加え、同裏六行目冒頭から同四六枚目表四行目末尾までを次のとおり改める。

「 もっとも、前記のとおり(原判決記載)、控訴人は五日間の間にAGO会員から特別会員Bにランクアップし、また、弁論の全趣旨によれば、乙山は六日間の間にAGO会員からクラウン会員にランクアップしていることが認められ、いずれも被控訴人会社の指導の様子をみる暇がないほどの短期間にランクアップしており、さらに、《証拠省略》によれば、他にも三名の顧客が短期間にランクアップした例のあることが認められるから、被控訴人会社の勧誘に顧客の投資心理を巧みに利用した点があったことは否定し得ないところである。しかしながら、前記した会員ランク制の一応の合理性に照らせば、控訴人らの右事例から直ちに、被控訴人会社の会員ランク制それ自体が、同社において組織的にとられていた、顧客から金員を収奪する手段であったとまでは断定することができない。」

3  同四六枚目裏九行目冒頭から同四七枚目表五行目末尾までを次のとおり改める。

「 しかしながら、株価は短期間に大きく変動し、特に資本金の小さい会社の株価は変動幅が大きいことは公知の事実である。また、右実質的収益率は、平均株式投資収益率を確保し、かつ、顧問料が運用資産の一〇パーセントにあたることを前提としたものであるところ、株式に投資する者は株式投資による収益が貯蓄した場合以上のものとなることを期待してなすのが一般であると考えられるうえ、定額である顧問料の運用資産に対する割合は運用資産の額如何にかかわる相対的なものであるから、被控訴人会社の徴収する顧問料が、合理的投資方法によっては実現が不可能となる程合理性を欠いたものとは直ちにいえないというべきであり、したがって、被控訴人会社が高額な顧問料を徴収することのみを目的とする違法な会社であるとは直ちに断定できない。」

4  同四七枚目表六行目から七行目にかけての「第四ないし一三号証」を「第四、第五号証、第七ないし第一三号証、前掲甲第六号証」と、同一一行目冒頭から同裏一行目の「取られているが、」までを「被控訴人会社は、昭和六二年一月か二月ころ、有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律(昭和六一年一一月二五日施行)に基づき登録の申請をしたが、」と、同三行目の「認めらる。」を「認められ、控訴人も被控訴人会社従業員から前記のような勧誘を受けて被控訴人会社の会員にさせられたことは前記二(原判決記載)に認定のとおりである。」とそれぞれ改め、同八行目の「会社ぐるみ」の前に「右事実をもってしてはいまだ、控訴人からの顧問料の徴収が、」を加え、同四八枚目表一行目の冒頭から末尾までを「基づくものであったと認めることはできない。」と改める。

5  同四八枚目表二行目冒頭から同四九枚目裏三行目末尾までを次のとおり改める。

「4 違法勧誘について

前記二(原判決記載)に認定の事実によれば、控訴人は、被控訴人会社名古屋支社の従業員中野及び渡辺(以下「中野」「渡辺」という。)から被控訴人会社との投資顧問契約締結の勧誘を受けた当時、株式の取引については経験が浅かったものというべきであり、手持資金も三〇〇万円弱と比較的少なかったといえる。しかるに、控訴人は、中野から「あなたのために特別に一〇〇円のが二〇〇円になる政治銘柄一万株枠をあけておく」と虚偽の言動(控訴人はその後被控訴人会社から右のような株式を推奨されていないことは前記認定の事実から明らかであるから、右言動は虚偽であると推認される。)で勧誘され、先ずAGO会員となった後、渡辺から「手持資金を確実に五〇〇万円にする」「最高会員になれば、手持資金を六〇〇万円から七〇〇万円にする」などと更に上位の会員になればより多くの収益が得られると持ちかけられ、被控訴人会社の指導による実績が皆無のまま、わずか五日の間にAGO会員から二ランク上位の特別会員Bまでランクアップさせられ、その間顧問料合計一〇〇万円を支払ったものであることは前記認定の事実から明らかである。ところで、手持資金三〇〇万円弱の顧客から顧問料一〇〇万円の支払を受けた場合には、株式取引により顧問料分を取戻すだけでもその収益率は五〇パーセントにも及ぶことになるのであるから、前記平均株式投資収益率に鑑みると、被控訴人会社に支払った顧問料分を取り戻したうえ、なおそれ以上の収益を見込むことは極めて困難となるといわなければならず、被控訴人会社従業員である渡辺はこのことを十分知り得たものというべきである。以上に見たところによれば、中野及び渡辺の控訴人に対する前記勧誘行為は、株式取引の経験が浅く資金量も少ない控訴人をして、虚偽の事実を述べて先ず最下位の会員にさせた後、更に高額の顧問料を支払った場合には、株式取引による収益を見込むのは極めて困難となるにもかかわらず、より高額の収益が得られるとの断定的判断を提供したうえ、控訴人が被控訴人会社の指導による実績を知る暇もない程の短期間に、順次顧問料の高額な上位の会員に勧誘したもので、これら一連の勧誘行為は、投資顧問契約締結への勧誘にあたり著しく相当性を欠く不公正なものであるというべきであり、社会的に許容される限度を超える違法なものであるといわざるを得ない(なお、以上の点は控訴人が不法行為として主張する事実中に含まれるものと解される。)。」

三  以上の次第で、控訴人の主張する被控訴人会社の組織ぐるみの不法行為についてはこれを認めることはできないが、被控訴人会社の従業員中野及び渡辺の控訴人に対する前記勧誘行為は違法であり、右行為は中野及び渡辺が被控訴人会社の業務を執行するにつきなしたものというべきであるから、被控訴人会社は控訴人が右違法な勧誘行為により被った損害を賠償すべき義務がある。

他方、被控訴人樋口については、同被控訴人が昭和五八年当時被控訴人会社の代表取締役であったことは前記三(原判決記載)に認定のとおりであるが、法人の代表者は、現実に被用者の選任、監督を担当していたときに限り、当該被用者の行為について民法七一五条二項による責任を負うものと解するのを相当とする(最高裁昭和三九年(オ)第三六八号同四二年五月三〇日第三小法廷判決、民集二一巻四号九六一頁参照)。そこで、これを本件について見るに、中野及び渡辺は被控訴人会社名古屋支社に勤務する従業員であったところ、《証拠省略》によれば、昭和五八年当時の名古屋支社の従業員数は約二五名であり、支社長のほか営業部には部長、課長が配置されており、中野及び渡辺は課長以下の末端の従業員であったことが認められるから、本社を東京に置く被控訴人会社の代表取締役であった被控訴人樋口は、被控訴人会社が当時従業員総数七〇名程度の比較的小規模の企業であったことを考慮しても、名古屋支社の組織及び本社との位置関係からみて中野及び渡辺の選任、監督を担当していたとは認められないというべく、他に右選任、監督の事実を認めるに足りる証拠はない。

四  そこで、控訴人が被った損害について判断する。

1  控訴人が被控訴人会社の従業員の勧誘により合計一〇〇万円を被控訴人会社に支払ったことは前記したとおりである。

2  控訴人は被控訴人会社従業員の違法行為により精神的損害を被った旨主張し、慰謝料を請求するが、本件においては、財産上の損害が填補されても、なお精神的損害が残存する特段の事情を認めることはできないから、右慰謝料請求は理由がない。

3  弁論の全趣旨によれば、控訴人は、本件訴訟の提起及び追行を弁護士である控訴人訴訟代理人らに委任し、相当額の手数料、報酬を支払い、あるいはその支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容、経過、認容額等諸般の事情を考慮すれば、本件不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては一〇万円をもって相当とする。

三  以上によれば、控訴人の本訴請求は、被控訴人会社に対し、不法行為による損害賠償として損害金一一〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六〇年三月二四日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、被控訴人樋口に対する請求は理由がない。

よって、控訴人の被控訴人会社に対する請求に関し原判決を右のとおり変更し、控訴人の被控訴人樋口に対する控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、九六条、八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 園田秀樹 園部秀穗)

<以下省略>

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